頑張ったら負け

妄想というか願望

バレンタインデー

後輩の社員に声をかけられた。
「バレンタインのチョコを受け取ってください」

「もちろん♡」
私がその声に反応して振り向こうとしたその時、体に鈍い痛みが走った。
ミシミシミシ。
肉がきしむ音がする。

「が、、、はぁ、」

どうやらチョコレートを全身に投げつけられた衝撃で体が悲鳴を上げているらしい。
私は倒れこみ、しばらくのたうち回った。

このアマ。チョコを凶器に使うとは。期待だけさせといて許さん。
来月のホワイトデーで倍返しにしてやる。
私は強く決心した。

しかし世の中そんなに甘くなかった。
「これで終わりなわけないでしょう。まだまだチョコはありますよ」

「ぎゃぁァァァーーーーー」

その後もチョコを全身に受け続けた私は奇声を上げながら失神し救急車に搬送された。

全治2ヶ月。

労災はおりなかった。

あと私が入院したことにより、後輩の子が精神的苦痛を負ったとして慰謝料も取られた。

ただの突然変異

会社で残業をしていた時の話。

「30になると一気にくるぞ」
鈴木先輩が肩を回しながら言った。

「え?どういうことですか?」
私は聞き返したが、鈴木先輩はニマニマと笑いながら答えようとしない。

「まあいいか」
明日から30になる私としては気になる話ではあったが、どうせ大したことではないのだろう。

ー翌朝

「あっあっあ」
朝礼も終わり自席でメールの確認をしていた私は突如として異変に気付いた。
爪の先から血が流れ落ち、体の中からは何かがうごめいている感じがする。
ブシャァー。
気付くと体から触手が生えていた。
しかも眼球は自由に飛ばせるし、なんならビームも出せるようになっていた。

異様な変化にしばらく慌てていた私であったが鈴木先輩の話を思い出し冷静になった。
なるほど。これが"くる"ということか。

その後、すっかり安心した私は触手で机に穴をあけたり、ビームで書類を燃やしたりして遊んでいた。


それを遠目に見ていたのは他ならぬ鈴木であった。
「何なのあれ?」

たまによくあること

新年会での出来事。

会が始まるやいなや新人の田中君は進行役の幹事長を蹴り飛ばすと宣言した。
「これからテーブルクロス引きをします」

そして田中君は実際に各テーブルを回ってテーブルクロスを引きまくった。
しかし成功率は極めて低く、テーブルの料理は無残にも床に飛び散っている。
何がしたいのか分からない。

その惨状を目の当たりにした田中君は言った。
「料理が足りなくなってきたので厨房から持ってきます」


田中君が厨房に消えた後、私は心配になってきたので厨房を覗きに行った。
すると、

「なんだこの料理は!」

シェフに文句をつけつつ、料理を床にたたきつけている田中君がいた。
厨房は台風が通り過ぎた後のようになっていて、下っ端の職員は血まみれではりつけにされている。

さすがにやり過ぎだ。

私は田中君に注意した。
「め!」

すると田中君は不本意な顔をしながらもおとなしく会場に戻って行った。

今回の騒動は酔った新人がちょっとヤンチャをしたということでそれなりに話題になった。

補足をしておくと田中君は社長の息子である。

ちなみに田中君に注意をした私は責任を問われクビになった。

火災

会社での出来事。
私は車を駐車しようとしたが、アクセルとブレーキを間違えてしまい社屋に
ぶつかってしまった。

「あ!やべ」

会社は炎上し倒壊した。

やがて中から社員が次々と出てきて犯人探しが始まった。
当然原因となる車を所持していた私が疑われ追及された。

「君がやったんだろう!」
「いつかやると思ってたんだ」

次々と心無い言葉が私を襲う中、新人の田中君が私をかばった。
「皆さん待ってください。まだ先輩が犯人と決まったわけではないでしょう?」

私は田中を殴り飛ばした。
「来るのがおせーよタコ。あと適当なこと言ってんじゃねーよ」

田中は殴られた衝撃で失神して倒れた。
役に立たん奴だ。

周りの社員たちはなぜかドン引きしている。

状況を語った私は言った。
「やれやれ、これじゃあまるで僕が悪者だ」

ばつが悪くなった私は田中の車で会社を後にしようとしたが、アクセルとブレーキを
間違えて別の社屋にぶつかり死んだ。

レロレロレロレロ

今日はバイトの日。
私はかれこれ10年、十円玉を磨くバイトを行っている。

作業は単純で十円玉を磨くだけ。
ただし道具は使わない。
舌で舐めて綺麗にするのだ。
両親には高度な技術を要する清掃業務だと伝えている。

「レロレロレロレロレロレロー」
私は床に這いつくばって十円を舐めまくる。
当然楽な仕事ではない。
病気になるものもいるし、十円玉をのどに詰まらせて死ぬものもいる。
こんな過酷な環境に耐えられたのもひとえに私が十円玉を愛しているからだ。
財布や貯金箱には十円玉しか入っていない。
買い物のお釣りで他の硬貨が出た場合は受け取り拒否をしている。

「愛があれば何でもできるのさレロレロレロレロレロレロレロレロ」

ところが、

「ぎゃあああアアアァァァーーーー」
舌に衝撃が走った。
見るとなんと五円玉が混じっていたのだ。
十円玉を愛しすぎた私の身体は他の硬貨を受け付けなくなっていた。


十円玉を裏切った私は全身から血が噴き出し即死した。

学生時代の思い出

卒業式後の教室。
私は窓に体をこすりつけて感傷に浸っていた。
「アッアッアッヒィー」
これで最後かと思うと名残惜しい。
私は机の上に立つと服を引っ張りながら踊りだした。
カオナシのまねーアヒィィィー」
だんだん楽しくなってきた。

しかし、

「何をしている?」
警備員が来た。大声ではしゃぎすぎたか。
私は弁解した。
「実は卒業したばかりで浮かれてしまって、すみません」

すると警備員はニヤッと笑った。
「卒業したということは、もう部外者ということだな。
 貴様を建造物侵入罪で即刻処刑する」

「あひ?」
私は間抜けな声を出してしまった。
コイツは何を言っているのだ。
「待ってください。薄汚い下民風情がわけの分からないことをー」

「死ね!」

警備員は火炎放射器で教室を燃やし尽くした。
「あひょひょひょー」
私は間抜けな声を出しながら息絶えた。

ー時刻は深夜2時を回ったところだった。


優秀な警察官

仕事の帰り道。
私は車で150キロというごく標準的なスピードで信号無視を繰り返しながら
逆走していたところ警察に止められた。

「何か?」
私は警察官を前に平然を装いながらも内心焦っていた。
さっきタバコをポイ捨てしたのがまずかったのかもしれない。

警察官は言った。
「実は最近このあたりで野生動物が殺されるという事件が多発していまして。
トランクの中を見せてもらってもいいですか?」

何だそんなことか。
私は車のトランクを堂々と開けた。
すると中から猟銃が大量に出てきた。
しまった!

「これはいったい何ですか?」
警察官が睨んできた。

私は言い訳をした。
「待ってください。これは親が勝手に積んだものですよ。それに私は
人間以外に銃を使ったことはありません」

「しかしー」
まだ疑っている警察官に対して私もそろそろ限界が来た。
「いい加減にしてください!これが国のやり方ですか?こっちは薬が
切れそうでイライラしているのに」

警察官は申し訳なさそうに言った。
「すみません。こちらの勘違いのようです。ところでさっきから携帯で
何をしているのですか?」

「運転中は暇なので友達とおしゃべりしています」

「え?」

私は運転中に携帯を使用した疑いで逮捕された。