頑張ったら負け

妄想というか願望

いらない何も

金の斧と銀の斧の話を知っているだろうか。
幼いころから超絶仲良しの友達が例の川を見つけたらしく、私は意気揚々とやってきた。

川に斧を落とすと妖精が出てきて言った。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?」

よし来たぞ。ここで謙虚さをアピールして億万長者になって人生無双してやる。

私は言った。
「何もいらない」

「???」

妖精はしばらく悩んでいたが納得したように言った。
「つまりあなたは俗世に染まらずにあらゆるものから自由になりたいということですね。分かりました」

「え?」
何の話だ。

妖精は続けた。
「ではとりあえずあなたの家と財産は全て処分しておきますね」

「ええ?」

「あと家族も邪魔でしょう。海外の辺境の地に飛ばしますね」

「ええええ?」

「それから毎月の給料もいりませんよね?すべてユニセフに送金されるようにしておきますね」

「ええええええええ?」

「最後に友達は、、、失礼。友達はもともといないようですね。忘れてください」

「は?」

私は全てを失った。

S市の危機

会社の休憩時間。
「で、これがそのスイス製の最高級時計で、職人が手作りで~」
私は後輩の田中君に中身のない自慢話を聞かされていた。

正直どうでもいい。

「それで何か面白い機能でもついてるの?」
早く話を切り上げようと私が適当に相槌を打つと田中君は待ってましたとばかりに続けた。

「実はこの赤いボタンを押すとこの辺一帯に核ミサイルが飛んでくる機能をつけたんですよ!急に死にたくなったら使うらしくて、この機能のために100億円払いました」

私は吹き出した。
「ちょ、それ絶対騙されてるやつだから」

「え?」

私は続けた。
「そんな機能あるわけないじゃん(笑)普通買ったときに気付くよね。これだからコネ入社のシティボーイは困るな。あきれて言葉にもならないよ。隙しかないというか無能がにじみ出てるというか。考える頭もないの?」

私が言い終わると田中君は無言で赤いボタンを押した。

私は優しく諭した。
「いや、それ押しても何も起こらないから。まさかまだ騙されたことに気づいてないの?ほんと頭パッパラパーだな。脳に綿でも詰まってるんじゃないの?そういえば昨日も~」


会社があるS市が日本から消失したのはその10分後のことだった。

命に代えても

突然だが今日は嫌な予感がする。
「ボディーガードを雇うか」
私は全財産を使ってボディーガードを大量に雇った。

しばらくすると屈強な男たちがあいさつにやってきた。
「命に代えてもあなたを守ります」

これは心強い。

私が意気揚々と道を歩いていると犬が吠えてきた。
「この畜生め!」
ボディーガードの一人が犬を八つ裂きにした。
危険物だと判断したようだ。
しかしすぐに通報されてボディーガードの一人は逮捕されていった。
なんてことだ。

続いて歩いていると痛車が見えてきた。
「この痛車め!」
ボディーガードの一人が車を破壊した。
しかし車は炎上し爆発したため、ボディーガードの一人は帰らぬ人となった。
「まさか本当に命に代えるとは」
私は驚きつつも値段相応の働きに満足した。

そうこうしているうちに会社に着いた。
席に着くと課長が出てきて言った。
「君は今日も遅刻だね。いい加減君には失望したよ。死んでもらう」
言い終わると課長はチェンソーを取り出し襲い掛かってきた。

しかし私は余裕を崩さない。
何せボディーガードがいるのだ。
ところが私が後ろを振り向くとボディーガードたちは寝転んで休んでいた。
私が叱責すると彼らは言った。
「大袈裟ですね。課長のあれは優しさの裏返し。愛のムチですよ。そもそも会社で人を殺すはずがありません。私たちには分ります」

「なるほど」
完全に納得した私は落ち着き払って席に戻った。

そして課長のチェンソーに真っ二つにされ息を引き取ったのであった。

万引き

スーパーにて。
私が日課の万引きを行っていると万引きGメンに呼び止められ、事務室に連れていかれた。

事務室に着くと店長と思わしき人が声を荒らげて言った。
「犯罪者が!盗んだものをすべて出せ」

横暴な人だ。
しかし私にも言い分がある。
「言いがかりはやめてください。この袋に入っている食品は家から持ってきたものです」

店長が真っ赤になって何か言おうとしたがストレッチマンが止めた。
「まぁまぁ、とりあえず監視カメラの映像を見てみましょう」

ストレッチマンがパソコンを操作すると映像が出てきた。
「え?ここはもしかして」
私の自宅だ。
映像では私が買い物袋に食品を詰めている様子が映っている。

店長が顔をしかめた。
「確かに家から持ってきたようにもみえるな」

いや、問題はそこじゃない。
「え?ちょ、これはプライバシーの侵害ですよ。ゆ、許されませんよ」

私の発言を無視してストレッチマンが鋭い指摘をした。
「これは万引きをカモフラージュするための偽装の可能性もありますね。商品を確認したいので別の角度からも見てみましょう」
ストレッチマンが操作すると買い物袋の真上に映像が切り替わった。

「え?他にもカメラがあるの?」

ここで店長が指摘した。
「彼は毎日店に来ているので別の日の映像も見たいな」

ストレッチマンは答えた。
「少なくとも20年分はありますが、いつのがいいですか?」

私は発狂した。
「消せ消せ消せ消せ」

私は店で大暴れし、器物破損、威力業務妨害、銃刀法違反、窃盗などの罪で逮捕された。

ホワイトデー

今日はホワイトデー。
とはいえ、不慮の事故で入院中の私には関係のない話だ。

しかし、

「ホワイトデーのプレゼントをもらいに来ました」
誰かが病室に入ってきた。
後輩の高橋さんだ。

彼女は惚れやすい性格で、惚れた相手に貢がせて破綻させることをライフワークとしている。
彼女に目をつけられたばかりに事故破綻させられた同僚は数知れない。

私は抵抗した。
「君、事前の連絡もなしに訪ねてくるなんて失礼じゃないか。あと私は重病人なので面会謝絶中だ」

高橋さんは私の話を無視して言った。
「まさか何も用意してないんですか。ありえないですよね?」

ヤバい。何か取られる。
しかし幸いなことに私は金目の物を一切持っていない。
家族もいないし、毎月の給料はユニセフに寄付している。
わずかな貯金は先月の慰謝料と入院費で消えたし失うものなど何もないのだ。

「奪えるものなら奪ってみろ」

翌日

病院で全身干からびた男性の遺体が発見された。

ドミノ

ドミノ世界大会。
私は細心の注意を払いながら並べられていくドミノを凝視していた。

「そろそろかな」

私は機を見計らうと観客席からドミノにダイブした。
ガチャーン。

倒れる感覚がきもてぃぃぃぃいいいー。

が、すぐに気づく。
ドミノには転倒防止のストッパーがついているため、倒れたのは私の周りのドミノだけだ。

しまった!
こんなことならダメージが大きそうな立体ドミノを先に壊しておくんだった。
私がすぐさま別のドミノを倒そうと動き出した瞬間。

「動くな!」

運営が準備していた警備員が駆け付け拳銃を構えた。
こいつら正気か。

当然私は止まらないので全身に銃弾を浴びて帰らぬ人となった。

観客席は思いもよらないパフォーマンスにどよめき立っていた。

ひなまつり

会社出社時。
「今日ってひなまつりですよね」
私は何げなく言った。

すると鈴木先輩は答えた。
「ああ、あの日か。うちの会社も騒がしくなるな」

どうやら何かあるようだ。
鈴木先輩は続けた。
「まぁ見ればわかるさ。よくあるやつだよ」

しかし会社に着くと想像を絶する光景が広がっていた。

「ギャァァァァ゛ーーーーーーーーーーーー」

祭壇にはたくさんの人が並べられ生きたまま火をつけられていた。
周囲には松明が大量に置かれており、よく見ると生首がくべてある。
祭壇の中央では司祭らしき人が生贄を日本刀で滅多刺しにしている。

「な、何ですかこれは?」

私が誰もが抱くであろう疑問を呈すると鈴木先輩は答えた。

「何って?ひなまつりだよ。年に一度、クレーマーや使えない社員を燃やして神に捧げることで会社の繁栄を願う祭りさ。まぁ祭りの形は地域差があるからちょっと驚いちゃったかな。ハハハハハ」

なるほど。

「ちなみにヒナアラレというのはここで燃やした人たちを砕いて丸めたお菓子のことだよ。後で食べるからよく覚えておいてね」

なるほど。

「あとひなまつりの由来は火成(ヒナ)祭りからきているらしいよ」

なるほど。

私は即行で退職した。